プロロードレーサー輩出プロジェクト ロード・トゥ・ラヴニール2023年スタート

目次

12月15日、東京都目黒区の自転車総合ビルにて「ロード・トゥ・ラヴニール(RTA)」始動に関する記者会見が行われた。プロジェクトの内容とともに質疑応答の様子をレポート。

ロード・トゥ・ラヴニール2023

プロロードレーサー輩出プロジェクト

12月15日、15時から始まった「ロード・トゥ・ラヴニール(RTA)」に関する記者会見。まずは、シクリズムジャポン代表・浅田顕の挨拶から会見がスタートした。

「2009年、2人の日本人選手がツール・ド・フランスのシャンゼリゼにゴールしました。それが夢の始まりだったんですね。それ以降、何年経っても続く選手が出てこないという状況が13年続いています。その間、国内の活動がなくなったわけではなく、地域密着型のチームや新たなリーグも生まれています。

今は、日本でいうとワールドチームに所属する選手たちが一番レベルが高い状態で、数も少なく国内のレベルもまだまだ低いです。我々も育成などに日夜力を入れていますが、現状結果が出ていません。

世界へのアプローチの仕方として、チームを作ったり選手個人が頑張ったりとありますが、まずは日本が世界とロードレースで肩を並べるにはプロ選手を”出し続けなければならない”と考えております。もちろんチームも大事ですが、個々に力が必要です。独立した形で世界のトップレベルと争える力が必要です。

それにあたり、今後何をしていくべきかを考えた結果が、プロロードレーサー輩出プロジェクトのロード・トゥ・ラヴニール(RTA)です」

プロへの道筋の標準化

ロード・トゥ・ラヴニール2023

今現在、日本には”プロ”という肩書きの選手がたくさんいるが、このプロジェクトでいうプロの定義は、UCIのワールドチーム、プロチームに所属する選手としている。

「ロード・トゥ・ラヴニール」の「ロード」は、ロードレースとロードマップのロードを意味し、「ラヴニール」は、”計画できる、目指せる未来”を意味する。

なお、国代表でU23の頂点を争うツール・ド・ラヴニールも目指すという点の意味も込められている。

「本当はチームをやりたいところではあります。でも現状戦える選手がいないというところが辛いところであり、まずはプロへのパスウェイを標準化していかないと」と、浅田は話す。

プロジェクト内容としては、3つのルールを守って7つの活動をしながらゴールを目指す。

ゴールは、”プロジェクトで成長した日本人選手とスタッフを構成メンバーの中心とする『世界レベルに通用しうる』プロチーム結成が準備できたとき”とする。

3つのルールについて、1つ目は世界標準のパスウェイでプロを目指すこと。野球やサッカーではそういったパスウェイがあるが、自転車にはまだない。

浅田が示す世界標準のパスウェイはこうだ。

①自転車競技をはじめて、走力を発達させ、レース技術や戦術の上達をさせる

②ジュニア国際レースやアマチュアレースで成績を残す

③もっと高い評価を得るために、欧州レースに参加するチームに所属する

④プロ契約のために評価の高い欧州のレースで成績を残す

⑤そこで評価が得られれば、UCIのワールドチームやプロチームと契約

2つ目は、7つの活動の専門家と連鎖化し、連携していくこと。ここでは、これまでと異なり、あらゆるエキスパートのプロジェクト参加協力者について広く募集をかける。

3つ目は、正しい評価でステップアップをしていくこと。段階を抜かしていきなりヨーロッパのチームで走って力が発揮できるかといったら、百戦錬磨で予選を勝ち上がってきた選手には敵わない。しっかりと選手の走力だけでなくメンタリティーの部分なども加味して評価・判断をしていく。

7つの活動 RTA1~7

ロード・トゥ・ラヴニール2023

RTA1 パスウェイのPR

メディアなどを通して、世界のロードレースの魅力を広く伝えつつ、プロになるにはこうやって進むべきなんだということも伝えていく。日本からどうやって本場に送り込むか、日本の状況に合わせた独自のルートを作っていく。

RTA2 タレント発掘

浅田のところでもこれまでトライアウトを20回以上やってきたが、来るのは国内で梯子しているような同じメンバーだという。結局今トライアウトをやっても、すでに自転車競技をやっていて上を目指したいという気持ちを持っている子だけしか来ない。少ないパイでトライアウトをやってもあまり意味がないと感じていると浅田は話す。まず、自転車の魅力を伝えて、RTA1とRTA2をうまく連携させ、自転車のトライアウトだけでなくスポーツ界全体のトライアウトに協力してもらう。国内でもトライアウトは実施されていて、福岡県で特に多く行われており、オリンピック選手を輩出している。

→全国のタレント発掘事業との交渉や実施&選手受け入れクラブチームの獲得を目指す

RTA3 ユースキャンプ

U15~17を対象として、トレーニングキャンプを実施する。パスウェイを示して、力を試した後、ここでは自分のロードマップを書いて欲しいと浅田は考える。

「プロになるためにどういう生活をすればいいか、どう当てはめていくかを考えて欲しい。海外遠征などに行くと気持ちが熱くなるけど、国内に帰ってくると冷めてしまうという子たちが多い。自分たちで考えるということをして欲しい。この世代で世界のレベルを知って、U17前後で技術、メンタル、その後の海外での生活にどう順応していくか体感してほしい」と浅田は話す。

→指導担当者と実施機会の確保

RTA4 TT定期テスト

現状、日本のTTの能力は低く、アジアの中でもなかなか勝てないレベル。国内でしっかりやるべきと浅田は考えるが、いかんせんお金がかかる。ロードレースは数百人から参加料をもらって運営できるるが、TTはたった数十人のために大会を開催することとなる。難しい面もあるが、全国の既存大会の協力のもと、TT記録会を実施していく。一方で、TTはヨーロッパに行かなくてもそこそこ国内で比較ができるという点もある。

→既存レースの各主催者との交渉と調整

RTA5 欧州レース参戦

自転車レースの本場はヨーロッパ。育成カテゴリーでの評価の対象もどうしてもヨーロッパとなる。そこで成績を出さないと上には上がれない。U19からは国内での評価を前提として、欧州のロードレースに本格的に参戦させていく。また、実力と状況に応じて育成方のUCIチーム結成を視野に入れる。

→参加選手募集と評価・所属先の調整

RTA6 代表チームサポート

世界選手権やツール・ド・ラヴニール、ネイションズカップに参戦するのに、より優秀な選手の輩出とその活動への全面的な協力を行う。

浅田が五輪プレ大会時にデンマークの強化委員長と話したときに、「ロードは僕たちでもメダルを取るといえない。だからトラックで取る」と言っていたほどロードレースで勝つというのは難しいため、とにかく優秀な選手を送り込むことが大事だと浅田は話す。

→日本代表活動計画についてNFと調整

RTA7 プロ契約サポート

選手の成長過程において、必要に応じた海外育成型チームへの派遣やプロチームへの契約サポートを行う。2028年以降年2人のプロ契約選手輩出を目指す。

→段階を追って、チームおよび代理人との情報交換開始

ロード・トゥ・ラヴニール2023
ロード・トゥ・ラヴニール2023
ロード・トゥ・ラヴニール2023

7つそれぞれの活動の中期見込みとしては、

RTA1 RTAのパスウェイを日本の中で標準化させる

RTA2 自転車を競技としてやる人は少ないが、自転車をトレーニングとして捉えている人口は多い。他スポーツでもウォーミングアップだったりトレーニングでワットバイクを使ったりする。そういったところで、パスウェイや魅力が充実できれば、トランジットの選手が増えることを見込める

RTA3 低い年齢層でも技術とビジョンの国際化

RTA4 実施と成長推移の分析から日本選手の走力の底上げ

RTA5 育成型UCIチームの結成を見込む

RTA6 ナショナルチームへの選手輩出、そして国際大会での評価成績獲得

RTA7 選手次第ではあるが、研修生派遣やプロ選手輩出

RTAのゴールに向け、期待される効果としては、以下が示された。

・次世代の日本人ロードレーサーによるツールやオリンピック、世界選手権での活躍が現実的になってくる

・プロジェクトに関わる全ての活動を包括的に支える組織基盤が整備されていくこと

・世界で経験を積んだ人材が全国各地でサイクルスポーツを通じて地域活動に大きく貢献できること

・世界を目指すための実現性のある明確なロードマップが共有され、挑戦するアスリート、サポートする組織などができていくこと

なお、プロジェクトの費用概算としてはこう発表された。

2023年は、約6900万円の活動費を見込む。獲得規模に応じた活動を行う

2024年は、約8500万円。これにチームを結成する場合は、その運営費がプラス

2025年~、約8500万円+チーム運営費

最後に、今後募集する内容について以下のように公表された。

・賛同:多数

・協力者:エキスパートとしてのプロジェクトの参加協力者

・協力団体:メディア、スポーツ協会、競技連盟、大会主催者など

・協賛チーム:UCIチーム、クラブチーム、競技部、地域スポーツクラブなど

・協賛企業:強化支援金、技術&知識提供、物品提供など

・個人協賛:強化支援金

・参加選手:多数

質疑応答

ロード・トゥ・ラヴニール2023

Q:浅田さん自身はナショナルチームの監督という立場からは退任されるとのことですが、今までJCFでやってきたこととの違いは?また、これからのJCFとの関係については?

A:プロジェクト自体は元々は代表チームとしてやりたかったことではあります。次の強化戦略プランとして組んできたんですが、なかなかやっぱり実施するのは難しいというところで、こういう形となりました。ただ内容自体、重要なことだと思います。

ツール・ド・フランスで優勝したら国の自転車整備が進むかと言ったら、そこは全くイコールじゃないということも思います。じゃあ何でやるかと言ったら必要だから、そして自分がやりたいからっていうこの二つだけなんですね。

JCFとの関係はわかりませんどういう方針でやっていくかというのはJCFでの決めごとだと思います。ただ、ロードレースそして日本代表チームというのは誰かの所有物ではないというふうに思っています。

Q:JCLチーム右京、EF NIPPO、チームユーラシアなど世界に日本人選手を送り出したいというところでは共通しているかと思いますが、そのあたりの連携だったりは考えていない?

A:連携をしていないわけではなくて、もちろん必ず皆さんには情報を流しますし、知らないよっていう話ではないんですね。ただやっていく中で、それぞれの考え、それぞれの事情もあると思いますし、そこが違うのかなと感じるところはあります。まあ成功すればそれが成功なんですけども。

今まで一番重要視してきたことはやっぱり選手が行けるかどうかなんですよね。我々がいくら盛り上がっていても選手が白けるとすごく白けるんです。軸に置いているのは、選手がどれだけ気持ちがあって行ってくれるか。

我々はもともとコンチネンタルチームをやってました。結構強いチームでした。ヨーロッパでも成績を残して次のステップに行けるんじゃないかという期待をいただきながら、私の力不足で、途中でやめることになってしまいました。

ヨーロッパの厳しさも本当に肌で感じてきたし、あれだけのメンバーでもそんな簡単なことではなかったです。なので育成に立ち返って再スタートをしました。ただ育成をしている中でも、みんながみんな強くなるわけではありませんし、若者たちが世代によって考え方も捉え方も少しずつ変わってきてますし、昔言ってきたことは今通用しなくなってきています。

そういう中で、例えばエカーズで4年間預かりますとなったら、4年間続けてもらうことってすごい大変なんですよね。半分以上の人は途中でやめてしまったり、あとは途中で脇道ができちゃうんです。うちでは練習は面倒見ます、ロードもあります。ですが、例えば機材やちょっと給料もらえるっていうなところがあると、やはりどうしてもそこに流れてしまう。一つはそこが多いし、もう一つはヨーロッパに行ったけど、自分はここでは厳しいんじゃないかっていう気持ちの面で少し諦めてしまう選手も以前よりも多くなってきてるのかなという感じはします。

ロード・トゥ・ラヴニール2023

Q:おっしゃるように世界を目指したいっていう若い選手が少なくなっているんじゃないかなと思うんですが、そのあたりはどうやってどう打開していく?

A:そこは本当に一番大変なところで、選手次第なんですよね。今までいろんなPR活動をさせてもらってるんですが、やっぱりまだまだスポーツ自体の魅力と、あとは分かりやすさを伝えられていないので。

本当はワールドツアーを走っている選手の次にどんどん同じ道筋をたどってくれる選手がいればいいんですけど、それがやっぱり一般化できない事情があるなと感じるんですよね。国内理由もあります。様々な事情があるので、そこをまっすぐ示すことができないんです。

あとは日本は本物が近くにないんです。ルクセンブルクという国は小さい国ですが、プロ選手が結構いるんですよね。ランキングでいうとそんな高いところまではこないですけど、活躍している選手がいますよね。

ルクセンブルクのU23の学生選手権には、30人ぐらいしかいないんですよね。でもやっぱり本物が周囲にいるので、やっぱり強い選手はどんどん出てきて、そこは本当にしっかりと魅力を伝えられてるんじゃないかなという印象を受けます。

なので、日本はいろいろな自転車の活動、手段はたくさんあるんですけども、本物がいない。そこに向けてのロードマップが示されていないので、伝えようがないんですよね。間違ってもワールドツアーの選手の「お前たちもっと頑張れよ」っていう声掛けに対して、何言ってんだおっさん、みたいなことにならないように願っています。

Q:今だと、ワールドツアーですらU23の選手が勝つみたいな現状だと思うんですけれども、今のロードマップからすると、U23のレースで結果を出すというところを目標として良いのでしょうか?もっと早くから育てないと、その先があまり見えないような印象を受けるのですが。

A:U23で成績を出しても遅いということはないと思います。なぜかというとそれは出来高の問題だからです。今、プロの若年化が進んでますけども、個人的には早すぎると思います。特に日本の選手には早すぎると思っています。なぜかというと、体力だけではないんです。ロードレースは本当にいろんな要素が必要で、一番重要なのは精神面だと思っています。その中で不慣れな海外生活ですとか、そういうストレスにさらされて成功する選手というのはそんなに多くないと思うんですね。

なので、そこの評価も一つに加えて、この選手が果たしてこの環境でやっていいのか。やっていけるのかっていうのもしっかりと見極めていかないと、やっぱり結局みんな帰ってきてしまうことになるんです。

今ヨーロッパに派遣をしている選手とか、連れてってる選手も何人もいるんですけども、やはりたまに2年に1回とか、体力的にはもちろん世界トップレベルじゃないんですけども、例えばフランスで、プロを目指しているトップアマチュアとちゃんと戦って、全然遜色のない、もしかしたら勝っちゃうんじゃないかっていうような選手もいるんです。ただ、やはり走る脚力以外に必要なものが足りていない、もしくは何らかの環境の変化で発揮できなかったり、そういう状況もあるので、早ければいいってもんじゃないと思っています。

この後2~3年して、どういうふうになってるかも観察をしていかなければいけないと思います。行っちゃう選手は行けますけど、行けない選手もたくさん出てくると思うんですよね。行ったけど、すぐに戻ってきちゃうっていうのも、それは一つリスクだと思うので、スポーツの世界としてはそこはあまり歓迎できないものだと思ってます。

Q:TTの強化という部分では、かなり科学的な面の寄与が大きいかと思うんですけども、しっかりお金をかけるだけ結果が出ているというのがトラックの世界選などを見ていても感じるところです。それこそ、現状で日本のトラックナショナルチームも活躍されてますし、そのあたりとのタッグであったり、サイエンスチームを組んだりとそのあたりはどう考えられている?スペシャリストの職種を募集するという点でも、やればやるほどお金がかかることだと思うんですが、そのあたりはどう強化していきたいかなと考えていますか?

A:世界に届くような選手が本当に少数だとは思いますが、まずそこに行き着くにはかなり時間が必要だと思いますし、もちろん才能のある選手がいります。ただ、その走力の底上げっていうことをまず考えたいと思うんです。

簡単に言うと、ロードバイク乗ってください、ここからここまで時間計ってくださいっていう、そういう力をまず伸ばさなきゃいけないと思うんです。そこにいろんな技術だとかフォームとか空気抵抗もありますし、パワーの分析もあるでしょうし、そういうところも突き詰めていきますが、まずは何もできていないんです。

例えばロードバイクで40kmでしか走れない選手にそんなお金かけてもしょうがないと思うんですよね。なので、まずはこのTTという競技、テストを標準化して、いつでも自分の力を計れるようにっていうところにして、まずは底上げをして、そこから出てくる選手に沿ってやっていきたいと思ってます。もちろんトラックのナショナルチームと連携できるところがあれば、ぜひやっていきたいと思いますし、まだ強度に関してはまだそこまで至ってないというところです。

まずはそういう基礎的な走力というところから始めたい。年齢で言うと15歳ぐらいからまずはかじっておくべきだと思うんですね。そこでは別にTTバイクはいらないんです。ロードバイクでどうやって走力を保てるか、技術をしっかりと習得してもらって、ジュニアぐらいから専門化をしていくべきだと思うので、そこを段階的に考えていきたいなと思います。

そういうところでも最先端の空気抵抗とか、最先端のトレーニングとかそういうことだけではなくて、下から考えていく上でも専門家が必要だと思っています。

ロード・トゥ・ラヴニール2023

UCI代理人の資格を持つ山﨑も「専門家はチームについているわけではなく、お金で知識を買える。トップチームの情報は買えるから、その辺のノウハウを含め検討していく」と質疑応答で追加のコメントをした